さて。
昨日、ミュージカル&歌舞伎の演出プランについて書かせていただいた後に、「そういえば、この段階(※ボツになるかもしれない段階)の構想を共有できるのって今しかないし、サロンでしかできないなぁとあらためて思ったので、今日もミュージカル&歌舞伎のクリエイティブに関する、もう少し踏み込んだ話をしたいと思います。
テクノロジーに手を出すからには…
ファミリーミュージカル『えんとつ町のプペル』の稽古場は実にクリエイティブです。
「完成した作品を演じる(再演)」ではなく、「新作を作る」なので、「あーでもない」「こーでもない」の繰り返し。
一度決めたことであっても、「やっぱり違うなぁ」と白紙になることも何度もあります。
ミュージカル界のスターの皆さんの貴重な時間を贅沢にいただいていて「申し訳ないなぁ」と思いつつも、ただ、やっぱり「ゼロから作る」というのはそういうことで、そしてそのことをキャスト&スタッフ全員が理解してくださっているので、「このパターンも試させてもらっていいですか?」というお願いには快く応えてくださいます。
昨日も稽古終わりに主演の吉原三夫さんが残ってくださって、「船を飛ばすシーン」の演出プランをギリギリまで考えてくださいました。
#泣けちゃう
演出プランを考える時にいつも立ち返るのは「テクノロジーで突破するか? アナログで突破するか?」です。
たとえば、プロジェクションマッピングを使えば精巧な『えんとつ町』を作ることができるわけで、なんなら「絵本」や「映画」の素材もあるわけで、それはそれで高いクオリティーのものをご提供できるのですが……僕が舞台に求めているのは「映像芸」ではなくて「舞台芸」なので、「ここは映像で乗り切れるところですが、せっかく【舞台】ですし、映像を使わずに、なんとかしましょう」とよく言います。
なので、テクノロジー(映像)に手を出す時というのは、「よっぽどの時」で、「ドーピングを使うんだから、確実に満塁ホームランを打つ」みたいな覚悟です(笑)
今回の作品でいうと、昨日お話しした「船を飛ばすシーン」が、まさにそれで、空に飛んでいく船の「飛んでいる感」「昇っている感」「浮遊感」を現在進行形で探っています。
探っている中で見えてきたのは「加工した方が『自然』に見える」という答えでして……今日はそこを御説明します。
加工した方が『自然』に見える
昨日の記事に添付した画像を確認いただけると分かると思うのですが、あの『煙空』は、会場に焚いたスモークに「レーザーの面」をあてています。
「頭の上の煙のモックモク感」を出したいのであれば、客席の上にスモークを焚けばいいわけです。
煙のシーンで、煙があるわけですから、それこそが「リアル」なんです。
ただ、今回はそこに「レーザーの面」をあてます。
当然、自然界に「レーザーの面」などないわけで、「レーザーの面があたっている煙空」なんて実際には存在しないのですが、レーザー(光)をあてて、煙の輪郭を明確に(ハッキリと)させた方が、「おお、本物っぽい!」と“感じちゃう“んです。
これは、「リアル」を採用するか、「本物っぽく感じちゃう」を採用するか?という話で、今回は後者を選んでいます。
「加工すると自然っぽく見えるよね」という話で言うと、「海の波」を表現する時なんかもそう。
「雲海」という言葉がありますが、「煙(スモーク)」を「海」に見立てる演出を、これまで見てきた方もいらっしゃると思います。
たしかに、ステージの床にスモークを張ると、スモークの揺らぎも手伝って、「海」や「池」「湖」や「川」のように見えます。
#オペラ座の怪人の池などはこの手法
ただ、ここに「レーザーの面の波」を差し込むと、さらに「海感」が出ます。
誰が見ても、明らかに加工品なのに、「おお!自然っぽい!」となるわけですね。
#参考映像を貼っておきます
#今回の舞台の照明テストの模様も
https://vimeo.com/630771821/ecf569a461
https://vimeo.com/630773709/7222c10a96
「偽物の方が本物っぼく見えることがある」というのが今回のお話の結論なのですが、ファミリーミュージカル『えんとつ町のプペル』や、新作歌舞伎『プペル ~天明の護美人間~』の制作現場では、こんな取捨選択がおこなわれております。
こんな裏話も踏まえて、観劇いただけると、より一層楽しめるかもしれません。
それでは稽古に行ってきまーす。
現場からは以上でーす。
【追伸】
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