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プペルバレエのフィードバック

2022.07.05 / 西野亮廣エンタメ研究所



おはようございます。
ステゴザウルスという恐竜(背中に板みたいなのがたくさん付いているアイツ)について調べたところ……「Stego(ステゴ)」は屋根、「saurus(サウルス)」はトカゲという意味で、化石が発見された当初は、部分的な骨しか見つからなくて、その骨の形状を見た学者が、『ウミガメの甲羅』のような姿を想像したそうで「屋根をもつトカゲ」と名付けられた……ということを知って、朝から腰を抜かしているキングコング西野です。
#朝から何を調べとんねん

さて。

一昨日、観に行った『プペルバレエ』を運営&演出されている関さんから、「どうでしたか? フィードバック(感想&改善点)をもらえると嬉しいです」という連絡があったので、今日は『プペルバレエのフィードバック』というテーマでお話ししたいと思います。
フィードバックを共有することで、少しでも興味を持っていただこうという下心です。

素敵なところはたくさんあったのですが(シンプルに「頑張ってる子供」は可愛い!)、「あそこが良かった」だけを言い合っても仕方がないので、「気になったところ」だけを書きたいと思います。

なので「ダメな舞台でした!」というわけではないので、くれぐれも!!!!
 


脚本を変えちゃダメ


まずは、(これは何度もお願いしていることですが)脚本を勝手に変えてはいけません。
これは本当にダメ。

たとえば、脚本には「開場時の音楽(開演前にループで流れている音楽)に『えんとつ町のプペル (Play.Goose版)』を流すこと」と書きましたが、現場では、ミュージカル『えんとつ町のプペル』の開場時と同じ『Chimney Sweep』のインスト(歌詞ナシ)が流れていました。

※『えんとつ町のプペル (Play.Goose版)』はコチラ→https://youtu.be/wG2XgJnk2t8

開場時の音楽を脚本家がわざわざ指定したのには勿論意味があります。

「バレエ」はストーリーを言葉で説明することができないので、『白鳥の湖』や『くるみ割り人形』のように、ストーリーをあらかじめ知っている作品じゃないと、よっぽどのバレエ好き(コアファン)じゃない限り楽しむことはできません。

バレエ『えんとつ町のプペル』(とくに発表会)の客席には、当然、『えんとつ町のプペル』のストーリーを知らない方もいて、そういう方に“合法的に”ストーリーを知っていただく為に、開場時に『えんとつ町のプペル』の大枠のストーリーが歌われている主題歌(歌詞アリ)を流す設計にしています。

「♪ハロウインの夜にやって来た、身体がゴミのゴミ人間」という情報を、お客さんにインプットしてもらった上で、『ハロウィンの夜にやってきたゴミ人間』をバレエ(踊り)で表現する。

お客さんの「なるほど。『ハロウィンの夜にやってきたゴミ人間』を、こうやって表現するんだ〜」という“確認作業”がエンタメになるわけですね。

※舞台『千と千尋の神隠し』も「釜爺をどうやって表現するんだろう?」という確認作業エンタメです。
ミュージカル『ライオンキング』もそう。

僕が書いたのは“開場時の「歌詞」で、全員がおおまかなストーリーを共有できている前提の脚本”なのですが、今回は、この、「まずは全体のストーリーを開場時に全員で共有する」という部分を丸々カットしてしまっていたので、(ストーリーを知らない人からすると)全体を通して、何の物語だったのか、どんな物語だったのが全く分かりませんでした。

演出家のアイデア(思いつき)が作品を殺したパターンです。

脚本家が「歌詞アリ」の曲を指定している時は、「歌でストーリーを補完する」という狙いが確実にあるので、そこは特に要注意です。

ストーリーは感情で書きますが、脚本は「ストーリーを伝える為の設計図」なので数学で書かれていて、数学には正解と不正解が確実にあります。

西野が「これはやっちゃダメ」と言っている時は、明確に答えが見えている時なので、本当にやらない方がイイです。

かれこれ千回ぐらい言っていますが、脚本は変えちゃダメです。

 

「サイズ」をもっと意識した方がいい


今回の発表会の感想は大きく二つで、「何の話(物語)なのかがよく分からなかった」と、もう一点、「見えなかった」です。

これは、もう「経験値」に近い話になってくるのですが…「稽古場のサイズで作られた作品を、2000人弱キャパの劇場でやっちゃった感」がありました。

僕は最後列から観させてもらったのですが、特にオープニングの5〜6分ぐらいは何も観えませんでした。

スモークの量と、照明の暗さが、「東京キネマ倶楽部」(キャパ250)でやった、ミュージカル『えんとつ町のプペル』のソレで、2000弱キャパの劇場(新宿文化センター)の量ではありませんでした。

もし、オープニングをあの「暗さ」でいきたいのならば、開場時の照明を落として(あるいは開演前に暗い時間を作って)、お客さんの目を「暗さ」に慣れさせなきゃいけない。
#暗順応

暗順応は、光を感じる『桿体(かんたい)細胞』の中で光を感じる物質が増えることによって起きる現象です。
ここの細胞をハックすれば、あの暗さでも、まだ見せることができます。

もひとつ細かい話をすると、「スモークが晴れるまでのスピード」が計算されていませんでした。

ミュージカル『えんとつ町のプペル』の時などは、ココを何度も何度もやったんです。
空調の強さや、会場の温度で、スモークの動きが変わってくるので、ここをコントロールしなきゃいけない。

「この温度だと、スモークが床に落ちるまでに○○秒かかるなぁ」というテストを繰り返さなきゃいけなくて、そういったテストの時間を作れないのであれば(スモークをコントロールできないのであれば)、スモークは「少なめ」にしておくことが得策です。
#切り捨てることも大事

僕は「15人の酒場」から「日本武道館」まで取り扱っているのですが、大きな会場(デカ箱)って、本当に技術(経験値)が必要で、デカ箱でやるならば、デカ箱の知識を持っている人をスタッフに入れておくといいと思います。

あと、演出をする時は、少なくとも、最前列(中央&両端)、最後列(中央&両端)にスタッフを座らせて、「オフサイドフラッグ」をあげてもらった方がいいと思います。
「このシーンは、この席からは全然見えません!全然聞こえません!」という。

とにかく、

スタッフの動きや、光や音は勿論のこと、風の動きや温度まで、演出家は空間の全てを支配しなきゃいけない。

で、これに関しては「経験値」の話になってくるので、「優秀な演出家を入れる」というのが答えで、「いや、私がやってみたい」というのであれば(その気持ちはすごくよく分かります!)、少なくとも今の10倍は(いろんなエンタメ空間)を観なきゃいけない。

少なくとも今の10倍は観れる“人生の時間割”を組まなきゃいけない。

ウチの若手が、僕に怒られる時というのは「センス」の話はあまりされなくて、もっぱら「観ている量が少なすぎるっ!もっと観ろ!」です。

『観る』という行為は『言語の獲得』と捉えた方がいいと思います。
『量』を観ていないと、会話することすらできません。

……ていうか、気がついたら、すでに2000文字を超えていたのですが、まだ全体の20分の1ぐらいしかお伝えできていません。
「本1冊分」ぐらいのフィードバックがありますので、また、あらためてお伝えします。

とりあえず今日は「脚本は勝手に変えちゃダメ」と「空間のサイズをもっと意識した方がいいと思います」の2点。

念の為、もう一度、言っておきますが、ここでは「気になった点だけ」をお話ししていて、「良かった点」はお話ししていないので、「今回はダメでした」という結論ではありません。くれぐれも。

チビッコ達が頑張っている姿には胸を打たれました。
素敵な場所を作ってくださって本当に本当にありがとうございます。

現場からは以上です。

【追伸】
https://salon.jp/nishino」を付けて今日の記事の感想を呟いていただけたら、西野がエゴサーチで見つけ出してニヤニヤします。
宜しくお願いいたします。

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