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個展のデザインと絵本監督の話

2018.06.21 / 西野亮廣エンタメ研究所

個展のデザインと絵本監督の話

以前、「反射光」と「透過光」では、受けとる人の脳の働きが違う、という話をさせていただきました。

反射光=本、書類など。
(外部の光源からの反射)

透過光=テレビ、パソコンなど。
(対象そのものが発光している)

どうやら僕たちの脳は、
反射光のエンタメを分析的(批評的)に見て、
透過光のエンタメを感情的(ボンヤリ)と見るようになっているようです。

「であれば、個展は“絵そのもの”を光らせてしまった方が面白いんじゃないの?」というわけで、国内外で開催している『えんとつ町プペル 光る絵本展』でございます。

驚いたことに絵本『えんとつ町のプペル』は、発売から2年が経とうとしている今なお売れ続けています。

お察しのとおり、個展会場が絵本『えんとつ町のプペル』の売り場の本丸になっているからです。
僕がよく言っている「おみやげ戦略」ですね。

もちろん次回以降の作品も、このやり方をする予定です。
『ほんやのポンチョ 光る絵本展』
『チックタック 光る絵本展』 
といった感じで。

もしかすると、まとめて『にしのあきひろ 光る絵本展』にするかもしれません。

となってきたら、本を売るためには、『光る絵本展』を魅力的にしなければいけないわけで、『光る絵本展』を魅力的にするには、『光る絵本展“映え”』する絵本を作る必要があります。

なるべくなら、太陽の光や、月や星の光を描けるように「屋外」が舞台となる絵本の方がいいでしょうし、「屋内」が舞台となる絵本にするのであれば、屋内の照明や、光が射し込む窓のデザインに気をくばった方がいいと思います。

そして、「ただ、光らせればいい」というわけでもありません。

光の強いページが2~3ページ続いてしまうと、個展会場が明るくなってしまうので、結果、光映えしなくなります。
つまり、個展会場の明るさも逆算しなければならないわけですね。

「絵本を作る」というのは、何も「紙の絵本を作って完成!」ではなく、紙の絵本を作ることはもちろんのこと、その絵本の売り場デザインや、売り場に足を運ぶ方の感情デザインまで、やる必要があると僕は考えます。

『絵本監督』という仕事は、そんなところから始まります。

んでもって、絵本の中身の話です。

『チックタック ~約束の時計台~』の最終ページを例に、解説していきたいと思います。
 


①僕がラフを描いた後に、別のスタッフさん(ラフを描くのが僕より上手い人)が、このように僕のラフを手直ししてくださいます。
 


②そこからザックリと色を塗って様子をみるのですが、これだと「森中の蛍が一斉に輝くラストシーン」としては、なんだか弱い感じがします。

そこで、原因と打開策を練る西野監督。



③「カメラ(読者の視点)を森の中まで突っ込みましょう!」と提案する西野監督。

なんと、ここで、自分が描いたラフと、手直ししてもらったラフを、すべてひっくり返します。

「最初から、そう言っとけや!」(←おそらくスタッフさんの本音)

スッタモンダがありまして、カメラ位置を変え、こんなラフが上がってきます。
 


④カメラの位置も定まり、いよいよ描き込みに入りますが、いやいや、まだ弱い。
たしかに、“森中の蛍が一斉に輝いている”のですが、感覚としては、遠くの方でおこなわれている感じがして、どこか「他人事」のような雰囲気です。



⑤そこで、「画面が蛍の光で潰れてもいいので、目の前に蛍の光を配置しましょう」と提案する西野監督。

そんなこんなで、こんなページになるわけですが、ここで、『光る絵本展』のこと(個展会場に展示されること)を考える西野氏。

一つ前のページも、二つ前のページも、三つ前のページも、実は暗いページ(光の弱いページ)が続いています。
ここで、実際の蛍の光(控えめな光)にしてしまうと、個展会場(光る絵本展)映えしません。

でもって、「蛍が光る」ことは事前に文章でお伝えしているので、たとえ絵本に描く蛍の光が青色でも「蛍の光だ!」と認識する“記憶補正”が読者の中で発生すると読んだ西野監督。

結論は、

「蛍の光は、事実よりも、光映えする光にしましょう!」という大英断! 
 


⑥そんなこんなで、こんなことになりました。
実際にはオレンジ色に光る蛍などおりませんが、そんなことはどうでもいいのです(事実をひん曲げられるのが絵のイイところじゃん!)。

ちなみに、奥にある土星がやけに光っていて、そのまわりに丸い光の輪(土星の輪ではなく)ができていますが、これは強い光源を写真や映像を撮った時に現れる『フレア』という現象で、肉眼では見えません。

つまり、この光の輪は現実世界には存在しないのです。

ただ、テレビやパソコンやスマホに囲まれて生きている現代人は、『フレア』を日常で見ていて、「もはや、『フレア』を見ているのが、現実なのか、画面越しなのかの区別がついていないので、“現実にあるもの”だと認識しているから、絵本に描いても問題ない」と判断する西野監督。

こんな感じで、絵本が作られていっております。
『絵本監督』の仕事を少し御理解いただけましたでしょうか?

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