『映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~』の構造について

投稿日:2022.07.26 / 西野亮廣エンタメ研究所

※この記事の内容は外部に発信していただいて大丈夫です。




おはようございます。
タレントさんがバトル・ロワイアルみたいに減っていく時代を生きているキングコング西野です。

さて。

昨日は、サロンメンバーさんのリアクションをそこそこ無視して(無視すな!)、物語を作る際の「キャラクター(制限)」と「シチュエーション(問題)」の話をさせていただいたところ、これが意外と好評でした。

しかし、まぁ、考えてみりゃ、ファンタジーの世界は「社会の縮図」で、そこに出てくるアレやコレやは「社会のメタファー(隠喩)」なので、心当たりがあって当然か。

『えんとつ町のプペル(1)』という物語は、ルビッチとプペルという二人の「起業家」が、
ブルーノという「メンター」の教えに習い、
スコップという「投資家」に投資してもらって、大衆に星を見せる…という構造になっています。
これは、現実世界で(起業家の身の回りで)普通に起きていることです。
#起業家あるある

『えんとつ町のプペル』が子供だけじゃなくて、大人にも(経営者にも)刺さっている理由は、そういった「心当たりがある」という部分なのかもしれません。

そんなこんなで、今朝、3日間の脚本合宿が終わりました。
この3日間の結果としては「結構進んだ」といったところ。

この「結構進んだ」というのは、「文字数」ではなく、「構造」のことで、このあたりの話が少し面白いと思うので、今日は、そんなことを書いていこうと思います。

※長いです。覚悟しろよ!

 

「目的」と「インセンティブ(取り分)」


さて。

この3日間、練りに練った『映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~』ですが、物語の下地となっているのは、絵本『チックタック ~約束の時計台~』です。

「壊れてもいないのに、11時59分で時計の針が止まっている時計台」の物語ですね。

「『1ヶ月後の12時に待ち合わせをした二人』を時計台が(かれこれ半世紀近く)待っている」というのが絵本版のオチなのですが(#メチャクチャ雑にオチをバラすやつ)、何を隠そうこれは「キングコング(梶原&西野)」の物語です。

梶原君が失踪した時に、僕(と当時のマネージャー)は全ての仕事をストップさせて、「待つ」という判断をしました。

僕が一人で活動をして、ヘタに活躍してしまうと、梶原君が戻ってくる場所がなくなるからです。
「ああ、俺って、必要ないんだな」となってしまう。

同じようなシチュエーションは、きっと、皆さんの人生でも1度や2度はあると思います。
「待つ」というアクションを選ぶシーンが。
アホみたいな言い回しだと、「ポジティブ待機」ですね。

今作のメッセージの一つは「止まってるんじゃない。待ってるんだ!」になってくると思うのですが、翻訳すると「信じてるんだ」です。

これは『えんとつ町のプペル』とも相性が良いし、何より、めちゃくちゃ個人的な話(梶原君との思い出話)なので、そこが一番良いなぁと思っています。

ここまではイイんです。問題はここから。


待ち合わせの約束をした二人を待ち続けて、待ち続けて、待ち続けて、ようやく12時の鐘を鳴らした(二人が再会した)はイイが、それは、「二人」と「時計台」にとっての「イイこと」であって、町の人達にとっては、ぶっちゃけ「どっちでもいい話」です。

このあたりが「サービス設計」と似ています。

その「目的」が、町の皆にとってプラスにならないと、町の皆で祝えないどころか、その前の段階として、町の皆が「二人」と「時計台」を応援する理由がない。

設計しなきゃいけないのは「ギャラリー(その他大勢)のインセンティブ」です。
これは、あなたのプロジェクトでも同じこと。

ここを上手に設計しないと、つまり、「自分の取り分」だけを考えてしまうと、物語や、サービスは大きくならない。

G A F Aが大きい理由は、「ギャラリー(世界中にいるその他大勢)のインセンティブの設計までされていたから」に尽きます。

ここからは、さらに踏み込んだ物語の「構成」の話になります。

やっぱり、チックタックの時計台の12時の鐘が鳴ることで、喜ぶ人がたくさんいた方がいい。
「その為には、どのようにセッティングすればいいのか?」それを考える3日間でした。

結論としては(絶対に内緒だよ)、時計師達(時計を作ったり、修理したりする人)が住む「千年砦」という町が今回の舞台なのですが、町のシンボルとしてチックタックの時計台がある。

時計師がたくさんいる中、なぜ、チックタックの時計台が「シンボル」になっているか?というと、チックタックの家柄は時計師の宗家(※市川海老蔵さんみたいな人)で、すべての時計師達の中心にいる。

歌舞伎の世界にも、花道の世界にも、「宗家」があって、「その業界の主役」みたいな位置にあるので、ライバル達は皆、思うところがあるのですが、だけど、これが面白いもので「宗家」の元気がないと、業界の元気がなくなるので、ライバル達も困るんです。

「巨人軍が弱かったら、プロ野球が盛り上がらない」みたいな感じです。

ライバル達は「主役に勝って、自分が主役になる」と願っているが、主役に対しては「死ぬな」とも思っている。
「業界」って、そういった微妙なバランスで回っているんです。面白いですよね。

そのセンから考えると、時計師の宗家であるチックタックは、ライバルの時計師達にとっては妬ましい存在だったけれど、チックタックの動きが止まってしまうと、「いや、それはそれで…」という感情になる。

「ムカつくけど、お前には活躍しておいてもらわんと困る」というところだと思うので、この気持ちを丁寧に描けば、ライバルの時計師達が「チックタックの時計台の針が12時を指すこと」を望む理由ができる。
#これで時計師達のインセンティブはOK


次に「町の人」のインセンティブについて。

つまりは、町の人達が「時計台が再び動き出すこと」「チックタックが再び動き出すこと」を望む理由です。
ここも描かないといけません。

これに関しては「宗家(良い家柄の人)」という“フリ”をメチャクチャ使えると思っていて…

チックタックは立派な家柄の人ですから、本来は「お手伝いさん」みたいな人に囲まれて、温室育ちで過ごすハズです。

ところが、チックタックは、チックタック家始まって以来のヤンチャ者で(海老蔵さんみたい)、隙を見つけては、ドヤ街(下町)の不良連中や子供達と遊び呆ける始末。
#絵本とは全然違うキャラクター設定です

その素行の悪さに、父や「お手伝いさん」は、ほとほと呆れたが、どっこい、チックタックは下町の人気者。
そのチックタックが、ある時、ある事故をキッカケに、時計台にこもり、もう何年も出てこない。

こうして、町の人達のインセンティブさえ設計しておけば、物語のエンディングに向けて、「さあ、行くぞ!」の流れが作れます。

「台詞」を書くのは、まだまだこれからですが、こんな感じで「構造」の開発を進めた3日間でした。
まだまだ先は長いですが、頑張ります。

また進捗状況を共有しますね。

現場からは以上です。

【追伸】
https://salon.jp/nishino」を付けて今日の記事の感想を呟いていただけたら、西野がエゴサーチで見つけ出してニヤニヤします。
宜しくお願いいたします。

https://youtu.be/7WfE8PbtC3s

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