ストーリーは『感情曲線』から作れ

投稿日:2019.01.03 / 西野亮廣エンタメ研究所

※この記事の内容は外部に発信していただいて大丈夫です。


おはようございます!
「冒頭の挨拶は、今年は格闘ネタでいくぞ!」と心に決めてスタートしたところ、3日目でネタがキレてしまったキングコング西野です。

はてさて。

大晦日から自宅アトリエに籠って向き合っているのは、新作絵本の脚本執筆。

他の仕事を全てお断りして、あらゆる情報をシャットアウトして、ここまで執筆一本に集中できることもなかなかありませんので、今日も、この体験を皆様と共有したいと思います。

 

ストーリーは『感情曲線』から作れ

「物語を書くときって、どこから手をつけるの?」
と思ったことってありませんか?

世界観自体は、作者の中にあるものなので、僕がどうこう言えることではありませんが、脚本を作るときには、いくつかセオリーがあります。
その一つが『感情曲線』です。

ここでいう『感情曲線』というのは、主人公のテンション(「嬉しい」とか「悲しい」とか)ですね。
お客さんは主人公に感情移入をして物語を追いかけるので、主人公の感情曲線をデザインすることは、すなわち、お客さんの感情をコントロールすることに繋がります。

脚本の執筆というのは、「お客さんが『心地良い』と思える感情の波を作る作業」といっても過言じゃありません。

ただ、この「感情の波」ですが、物語全体の時間から逆算しないと、ドッチラケになってしまいます。

 

たとえば!

今、書いている新作絵本のストーリーは、ザックリ言うと、こんな感じ↓

①ヒロインと出会い、いい感じになる。
②ヒロインと喧嘩になる。
③恋人として絶頂期を迎える。
④ライバルの罠にハメられて、最悪の状態になる。
⑤ハッピーエンドに向かう

主人公の感情が盛り上がるポイントが①と③と⑤の三ヶ所あるのですが、『映画』だと、これで良くても、ページ数の少ない『絵本』だと、これは、ポイントが多すぎるんですね。

では、これを、どう改善すれば、絵本サイズに収まった上で、気持ち良い感じになるのでしょうか?

この場合、改善ポイントは①と②ですね。
改善前のプロットと、改善後のプロットを見比べてみると、分かりやすいかもしれません。
サロンメンバーの皆様にだけ、特別にお見せしましょう。

 

改善前のプロット(物語の前半部分)

【1】

「ジミー」は、暗い暗い穴の中で暮らしていました。
光さえなければ、その醜い姿を人々に晒さずにすむからです。
闇の中で働く炭鉱夫の仕事は彼にとっては天職でしたが、
今から3年前に、町の空を覆い隠す煙の造煙所の廃止が決定。
それに伴い、いくつかの炭鉱は閉鎖し、ジミーは職を失いました。

(※炭鉱夫姿のジミー)

 

【2】

仲間の炭鉱夫達は新しい仕事に就きましたが、醜いモンスターを雇ってくれるオーナーなどおりません。
そんな中、ジミーに声をかけたのが『天才万博』という名のモンスターハウス。
そこには、ジミーと同じように世の中からハジかれたモンスター達がズラリ。
獅子面男にヘビ女、釘打ち男にツギハギ女。
七色の炎を自在に扱う「チャッカチャッカ」もいて、連日、様々なモンスター達が観客を沸かせています。

(※東京キネマ倶楽部のステージに立つモンスター達)

 

【3】

世の中からハジかれたモンスター達も、ここでは人気者。
自分に自信を取り戻したモンスター達は皆、堂々とした表情です。
そんな中、ジミーは持ち前の怪力で、団員達を空高く放り投げて、観客を沸かせてはいますが、どっこい、顔はまだまだ下を向いたまんま。
もっとも、ここの新入りは、いつもこの調子です。

(※団員を空高く放り投げるジミー)

 

【4】

「お客さんはあなたのパフォーマンスに拍手を送っているんだから、ちゃんと前を向きなさいよ」

公演後にジミーに声をかけたのは、常連客のララ。
この町一番の造船会社の令嬢です。
ジミーは、これまで、こうして人から話しかけられる経験がほとんとなかったものですから、うまい返事が見当たりません。

「また、観に来るから、その時までには、前を向けるようになっておいて」

(※終演後のキネマ倶楽部)

 

【5】

帰り支度をする団員の横で、ジミーがポーッと頬を赤らめています。

チャッカチャッカがジミーに話しかけます。

「おい、ジミー。まさか、あの娘に惚れたんじゃないだろうな?」

「ア、ウウ」

「バカなことを考えるな。俺たちはモンスターだ。人間が相手をしてくれるのは、俺たちがこの小屋の中にいるからだ」

「アウウ」

「人間に情を移すな。悲しい思いをするだけだ」

ジミーは鏡に映った自分の姿を見て、溜息を零します。

(※キネマ倶楽部の楽屋)

 

【6】

約束どおり、ララが『天才万博』に遊びに来てくれました。
ジミーは持ち前の怪力で観客を沸かします。
ことあるごとにララに目をやるジミーを見て、仲間の団員達は少し心配です。

「ジミー、余計なことを考えるな。あの娘は『天才万博』を応援してくれているだけで、お前を目当てに来ているわけじゃない」

「アウ、ウウウ」

「人間に情は移すな。ロクなことがないぞ」

(※沸き立つキネマ倶楽部)

 

【7】

その夜、ジミーは驚きの行動に出ます。
どの団員よりも先に帰り支度を済ませ、小屋を後にし、なんと、家に帰るララの後を追いかけてしまったのです。

(※ララを追いかけて、屋根の上を走るジミー)

 

【8】

ジミーが、しばらく、ララの後を追いかけた時でした。
突然走ってきた黒い車がララの横で停まり、ララを車の中に押し込もうとしています。
このままでは、何者かにララが連れ去られてしまいます。

(※黒塗りの車に押し込まれそうになるララ)

 

【9】

「アウウウウウ!」

ジミーは車にめがけて走り出し、そのまま体当たり。
黒づくめの男達を次々に放り投げて、ついには車ごと放り投げました。

「やめて!」

ララが叫びますが、ジミーは怒りがおさまりません。
放り投げた車に飛び乗って、車の中から男を引っ張り出します。

「やめてってばっ! 私の友達に何するの!」

(※放り投げた車から、ピーターを引っ張り出すジミー)

 

【10】

「ト、モダチ?」

ジミーの動きが止まります。

「その人達は私の友達よ。帰りが遅いから迎えに来てくれたの」

ジミーが男から手を放します。

「怪力男。なんで、アンタがここにいるの? まさか、小屋から後をつけて来たの?」

「おい、とんだストーカーだな。こんなことが許されると思ってんのかよ」

ララの友人のピーターは目の上に大きなコブができています。

「帰って」

ララがジミーに叫びます。

「いいから、帰って!」

(※えんとつ町の路地裏。背景にスナック『Candy』えんとつ町店)

 

改善後のプロット(物語の前半部分)

【1】

「ジミー」は、暗い暗い穴の中で暮らしていました。
光さえなければ、その醜い姿を人々に晒さずにすむからです。
闇の中で働く炭鉱夫の仕事は彼にとっては天職でしたが、
今から3年前に、えんとつ町の「造煙所」の廃止が決定。
それに伴い、いくつかの炭鉱は閉鎖し、ジミーは職を失いました。

(※炭鉱夫姿のジミー)

 

【2】

仲間の炭鉱夫達は新しい仕事に就きましたが、醜いモンスターを雇ってくれるオーナーなどおりません。
そんな中、ジミーに声をかけたのが『天才万博』という名のモンスターハウス。
そこには、ジミーと同じように世の中からハジかれたモンスター達がズラリ。
獅子面男にヘビ女、釘打ち男にツギハギ女。
ここでは、連日、様々なモンスター達が観客を沸かせています。

(※東京キネマ倶楽部のステージに立つモンスター達)

 

【3】

世の中からハジかれたモンスター達も、ここでは人気者。
先輩団員達は皆、堂々とした表情です。
そんな中、新人のジミーは持ち前の怪力で、団員達を空高く放り投げて、観客を沸かせてはいますが、どっこい、カーテンコールでは顔は下を向いたまんま。
まだまだ自分に自信が持てません。

(※団員を空高く放り投げるジミー)

 

【4】

慣れない仕事の帰り道。
ジミーがトボトボ歩いていると、突然走ってきた黒い車が、目の前を歩く娘の横で急停車。
中から出てきた黒服の男達が、娘を車の中に押し込もうとしています。
大変です。
このままでは、娘が悪党達に連れ去られてしまいます。

(※大きなマスクで顔を隠しながら町を歩くジミー)

 

【5】

「アウウウウウ!」

ジミーは勇気を振り絞って、車めがけて走り出し、そのまま体当たり。
悪党達を次々に放り投げて、ついには車ごと放り投げました。

「やめて!」

娘が叫びますが、ジミーは止まりません。
放り投げた車に飛び乗って、車の中から男を引っ張り出します。

「やめてってばっ! 彼に何するの!」

(※放り投げた車から、ピーターを引っ張り出すジミー)

 

【6】

「ウウ?」

ジミーの動きが止まります。

「その人は、私の…フィアンセよ。帰りが遅いから迎えに来てくれたの」

ジミーが男から手を放します。

「こんなことが許されると思っているのか?」

男が言いました。

「ちょっと、コッチへ来てもらおうか」

ジミーは怖くなってしまって、その場から逃げました。

(※えんとつ町の路地裏。背景にスナック『Candy』えんとつ町店)

 

【7】

『天才万博』の宿舎に帰ると、七色の炎を自在に扱う「チャッカチャッカ」が団員達に「炎に色をつける方法」を得意気に話しています。

同じ痛みを持つバケモノ達は、まるで家族のよう。

「どうした、ジミー。何があった?」

ジミーの変化にも、すぐに気がついてくれます。
ジミーが帰り道の出来事を話すと、チャッカチャッカは、こんなアドバイスをくれました。

「あまり、コッチから人間には近寄るな。ロクなことがないぞ」

(※「POUPLLE HOTEL」の内装。ドミトリー)

 

【8】

ある日。
あの娘が『天才万博』に、お客としてやってきました。
娘は、目の前で繰り広げられるモンスター達のパフォーマンスに拍手を送りながらも、団員を空高く放り投げる「怪力男」のことが気になります。
あの「怪力男」、どこかで見覚えがあります。

(※天才万博の客席に座る娘)

 

【9】

終演後、ジミーが小屋を出ると、娘が立っていました。

「新入りさん。あなたでしょ。あの夜、暴れたのは」

娘はジミーに詰め寄ります。

「一体、何が目的だったの? 説明してちょうだい」

「アウウ、アウ、ウウ」

ジミーは身振り手振りを交えて、自分が娘を助けようとしたことを懸命に伝えました。

「何、アンタ。勘違いで、あんなに暴れちゃったの?」

ジミーは申し訳なさそうに頷きました。

(※劇場の外でジミーに詰め寄る娘)

 

【10】

次の瞬間、道路脇からカエルが飛び出してきて、

「ひゃっ!」

と情けない声をあげたのはジミー。
ジミーは昆虫や小動物が苦手で、すっかり腰を抜かしています。

その様子を見て、ララが笑います。

「ウフフ。そんなのが怖くて、あの夜、よく立ち向かったわね?」

「アウウ」

「ありがとね」

(※笑うララ)


長くなってすみません。

分かりました?
 

【改善前】

①ヒロインと出会い、いい感じになる。
②ヒロインと喧嘩になる。
③恋人として絶頂期を迎える。
④ライバルの罠にハメられて、最悪の状態になる。
⑤ハッピーエンドに向かう

【改善後】

①ヒロインと最悪の出会いをする。
②偶然の再会を果たし、急接近する二人。
③ライバルの罠にハメられて、最悪の状態になる。
④ハッピーエンドに向かう。

としたわけですね。
「最悪の出会い」からスタートすることで、感情の山(盛り上がり)を一つ減らしたわけです。

ページ数が限られている絵本だと、これぐらいシンプルにしておいた方が読みやすいと思います(*^^*)

皆様も脚本を書かれる時は、一度、この『感情曲線』からデザインしてみてはいかがでしょうか?
現場からは以上です(*^^*)

 

【追伸】
1月12日~14日まで、目黒駅から徒歩1分のところにある会場で開催されている『占いフェス』で「おでん屋さん」として活躍しております(もしくは呑んだくれております)。

是非、遊びにいらしていらしてください。

缶ハイボールの差し入れ、お待ちしております。
缶ハイボールの差し入れ、お待ちしております。
缶ハイボールの差し入れ、お待ちしております。

『占いフェス』のチケットはコチラ↓

https://uranaifes.com/


【パターンA】

①ヒロインと出会い、いい感じになる。
②ヒロインと喧嘩になる。
③恋人として絶頂期を迎える。
④ライバルの罠にハメられて、最悪の状態になる。
⑤ハッピーエンドに向かう

 


【パターンB】

①ヒロインと最悪の出会いをする。
②偶然の再会を果たし、急接近する二人。
③ライバルの罠にハメられて、最悪の状態になる。
④ハッピーエンドに向かう。

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